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【コラム】~作家・久瀬千路が覗いた、電子書籍の世界1~

 シティブックスよりエッセイの執筆依頼があったのは、2016年の5月頃のことだ。
 渋谷の喫茶店で会った代表取締役は、好感のもてる熱血漢だった。彼は出版界の現状について嘆きつつも、どうにかして突破口を開きたいと熱く語った。その流れの中で、出版界の現状などについて書いてほしいとの頼まれた。

 ガラケー、スマホがなかった頃、電車内は、寝ているか、文庫本を読む人、新聞を器用に折りたたんで読む人が多かった。10年以上前は、ごくありふれた光景だ。ところがたった10年で、電車に乗っても紙の本を読んでいる人を見かけることがほとんどなくなった。
 これは何を意味しているのか。

 紙の本が読まれなくなっているということだ。
 30年以上出版界に生きてきた者にとって、紙の本の凋落ぶりを目の当たりにするのは辛い。こんな時代に来るとは夢にも思わなかった。嘆いているだけで済めばいいけれど、そんなことはない。事は生活に関わっているから安穏となどしていられない。
 紙の本に、未来はないのか?
 スマホのせいで日本人は本を読まなくなったのか?

 正解は誰にもわからないが、現状を見れば、「未来はない」と考えざるを得ない。
 こんなことをしかつめらしく言ったところで何も変わらない。座して死を待つなんてことはできない。ぼやいているだけでは何も変わらない。

 そんなことはわかっているけれど、何をしていいのかわらない。というところに、シティブックス代表の熱血漢が現れた。電子書籍を隆盛に導くことが希望の光になるかもしれない、と語り、実際に今年7月1日に最初の1冊目を発売し、4ヵ月ほどたって刊行冊数は20を数えるまでになった。

 シティブックスは希望の光をたぐり寄せているように思える。